「幽霊屋敷」

こんにちは!
ジョン・ディクスン・カーの「幽霊屋敷」:夏なので怪談なんてどうでしょう、というのは冗談でして、この本の原題は、The Man Who Could Not Shudderです。これまでに「震えない男」という邦題で出版されていましたが、新訳の邦題が「幽霊屋敷」で、ちょっと怪談っぽくなりました。
幽霊が出るという噂の屋敷を購入したマーティン・クラークは、本当に幽霊が出るか試してみようという趣向で知人をエセックス州プリトルトンにある屋敷に招待します。招待されたのは、語り手でジャーナリストのボブ・モリスンと彼の婚約者テス・フレイザー、クラークの友人アーチボルド・ベントリー・ローガンとその妻グウィネス、建築家のアンディ・ハンター、事務弁護士のジュリアン・エンダビーの6人。パーティ当日、屋敷に入ったテスは、何者かに足首をつかまれて驚愕します。早速幽霊が出たのか?
それにしても幽霊が出るかもしれない屋敷によく行くなあ、というのがこの時点での私の感想です。私は神も仏も幽霊も信じていませんが、それでも気味が悪い噂のあるところでくつろげるとは思えませんので、パスしたいところです。あなたならこのパーティーに出向きますか?
この屋敷では、17年前に事件が起きています。当時80過ぎの老執事が、落ちてきたシャンデリアの下敷きになって死亡しました。どうやら椅子の上に立ってシャンデリアに飛びついてぶら下がったようです。いい年をしたおじいさんがなぜそんなことをしたのか?謎です。
さて、事件は翌朝起こります。ビリヤード室にいたボブとアンディは銃声を聞きます。ビリヤード室からは書斎が見え、ボブはタイプライターで手紙を書こうとしていたローガンが、後ろ向きに跳ね飛ばされている様子を目撃します。駆け付けると、ローガンは額の真ん中を撃ち抜かれて死んでいました。その様子を間近で目撃したローガンの妻グウィネスは、「部屋がやった」と言います。壁にかかっていた銃が勝手にジャンプしてちょっと空中でとまってから、夫を撃った、と言うのです。はぁ?彼女の言うことが事実だとすれば、銃に何らかの仕掛けがあったに違いない、書斎に集まった面々はいろいろ推理しますが答えは出ません。まるで幽霊が犯人であるかのような顛末です。
捜査に現れたのはロンドン警視庁のエリオット警部と、フェル博士。ボブと両者は知り合いです。でもロンドンにいるはずの二人がなぜこんなところに居合わせたのか?なんと、ボブから電報をもらったので来たと言います。ボブは電報など打っていない。電報の文面は「いわゆる幽霊屋敷での幽霊パーティで重大事件が予想さる/警察に正式な連絡は取れないが口実を作ってきてほしい」というものでした。
フェル博士というのはカー作品でしばしば登場する名探偵だそうで、今回もこの謎解きに貢献します。私はこの作品が初カーで、その後4作読みました。フェル博士が出てくる他の作品は「三つの棺」だけ読みました。この中でフェル博士は、密室講義という章で探偵小説について論じます。これ有名みたいです。いずれ紹介したいと思います。
さて、フェル博士が謎解きをしたのは事件直後ではなく、それから数年たってからでした。なぜすぐに謎解きをしなかったのか、そもそも幽霊屋敷の怪しい主クラークはこの事件にどう関わっていたのか、フェル博士はやっと明らかにします。そして、クラークを襲った皮肉な運命を暗示してこの物語は幕を閉じました。
2024/8/18