「掃除婦のための手引き書」

こんばんは!
ルシア・ベルリンの「掃除婦のための手引き書」:短編集です。これ、ミステリーでも映画の原作でもありません。なんでこの本買ったのだろう?すでに約1年分はある積読本も買った理由はそれぞれにあり、なぜ買ったか悩む本は皆無なのですが、この本だけはなぜ買ったのかどうしても思い出せない。気になるので読みました。
読み進めるうちにわかってくるのは、長短それぞれの短編が、一人の女性の半生を語っていること、そして彼女の問題だらけの親族や、その人々が彼女の人生に色濃く与えた影響とそのことに対する彼女の感慨でした。祖父も叔父も母もアルコール依存症で作者自身もそうだったこと。作者本人の依存症の根深さを一番深く感じるのが「どうにもならない」という作品です。シングルマザーの主人公はお酒が切れて苦しい。このままでは禁断症状が出て何もできなくなる。なんとかお酒を購入できる時間までじりじりしながら待っています。朝までにお酒を購入してなんとか飲めれば子供たちが起きる前に朝食を準備することができる。母がそういう状態であることをわかっている息子の一人は、「どうやって手に入れたんだよ、酒」と言う。彼は母がお酒を買いに行かないようにお財布と車の鍵を隠していました。でも母はそれでもお酒を買って飲んでいました。まあ、においでばれますね。
「巣に帰る」という作品では晩年を迎えた一人暮らしの女性が主人公です。「わたしがここまで長生きできたのは、過去をぜんぶ捨ててきたからだ」と語りつつも「枕に〝もしも〟をつけて過去を中に入れるのであれば、そう危険ではないかもしれない」とも語ります。その後に語られる幼少期から成人に至るまでの回想は彼女の人生がそれなりに平穏に過ぎたことを示す内容で、「陳腐に聞こえるけれど、ウィリーとわたしは末永く幸せに暮らした」と結ばれます。でもそれで終わりではありません。このお話は、〝もしも〟であったことを示唆して幕を閉じるのです。
ここからはプライベートの話なんですが、先日インフルエンザから肺炎になり、人工呼吸器に繋がれていた兄が、いまだに気管切開の影響で話はできないのですが、人工呼吸器からは離脱できました。彼が筆談で私たち妹に精一杯語った内容は、「たんのきゅういんがんばってる」でした。妹が今回本当に献身的に兄のために尽くしている姿を目の当たりにし、兄もそれに応えていて、今後の兄の回復には時間がかかるでしょうが、私たち兄妹には〝もしも〟はないと祈っています。
お休みなさい。2024/12/15