「クリスマスに少女は還る」

こんばんは!
キャロル・オコンネルの「クリスマスに少女は還る」(原題:Judas Child):私はこのお話を愛していますが、せめて12月まで取っておこうと思い、寝かせておきました。まず題について。少女誘拐事件のお話なので「帰る」あるいは「返る」でもよさそうなところにあえて「還る」を当てたところが素晴らしいんです。読み終わったときにこの「還る」がじわじわ効いてきます。600ページを越える大作で読むのが大変ではありますが、読み終わったときに心に広がる感動をぜひ味わっていただきたいと思います。
クリスマスも近いある日、二人の少女が失踪します。州副知事の娘で優等生のグウェンとホラーマニアで問題児のサディー。正反対の二人ですが実は大親友です。グウェンもサディーの影響でホラー映画に詳しい。この失踪事件を担当した刑事ルージュ・ケンダルは、15年前に起きた少女誘拐殺人事件を思い出さずにはいられません。被害者は彼の双子の妹だったから。警察の総力をあげた捜査が始まります。そこに現れたのは法心理学者のアリ・クレイ。顔に大きな傷跡のある女性で、どこか謎めいていますが、彼女はためらいもなく言い放ちます。サディーはグウェンをおびき出すための囮で、誘拐された直後に殺されているだろう。この発言は関係者に大きな衝撃をもたらしました。
さて、二人の少女グウェンとサディーは大きな地下室に監禁されています。二人で励まし合いながら、なんとかこの難局を乗り越えようと知恵を出し合ったり、挫けそうになる気持ちをなんとか立て直そうとホラー映画の話をしたりしています。このエピソードがいいんですよ。一番心に残るのは、足にけがをしていて逃げ出せそうにないと思ったグウェンが、いざとなったら私を置いて逃げてね、と言った時のサディーの返事です。「あたしにあんたを置いていけるわけがないでしょう?」
この言葉は、事件が解決した後に改めて心に響いてきます。この作品が忘れられない名作になったのは、読んだ時にも心に残り、ラストで改めて思い起こすとさらにこの言葉の意味が再び迫ってくるその多重性にあるように思います。
アリ・クレイの顔の傷の秘密も明かされますし、15年前の事件もこの物語の根底に影を落とす構成は読み応えたっぷりです。クリスマスに読むのにふさわしいお話ではないかもしれませんが、決してハッピーエンドとは言えないかもしれませんが、不思議な感動に包まれた読後感でした。
お休みなさい。2024/12/7