「自由研究には向かない殺人」

こんばんは!
ホリー・ジャクソンの「自由研究には向かない殺人」:昨年完結した向かない3部作の1作目です。昨年の翻訳ミステリー界で最大の話題だったといっても過言ではない衝撃のシリーズでした。本作はYA小説だそうです。うーんYA小説って何?ヤングアダルト向け小説だそうです。主人公のピップは女子高生。5年前の女子高生失踪事件を自由研究の課題に選びます。当時17歳のアンディが失踪しました。犯人と疑われたのが交際相手のサル。彼は既に自殺しています。アンディの遺体は見つかっていませんが、死因審問で死亡したものと見なされました。ピップがこの事件を取り上げたのは、サルが犯人とは思えなかったから。ピップはサルの家を訪れます。事件以来ひっそりと人目を忍んで暮らす一家の元へ。出てきたのはサルの弟のラヴィ。彼に自由研究としてアンディの失踪事件を取り上げるつもりだと告げ、インタビューに応じて欲しいと依頼します。サルが犯人だと思えない、そうじゃないことを証明したいという彼女に、ラヴィは協力することにしました。
ピップはラヴィ以外の関係者にもインタビューして話を聞きます。彼女はスマホやネットも駆使して調査を続けます。ラヴィも加わり、二人は真犯人を求めて時には家宅不法侵入までして捜査に取り組むわけですが、ラヴィは自分が有色人種だからもし見つかったら、とおびえます。ピップは白人だけど二人目のお父さんがナイジェリア人なので弟と肌の色が違います。こんなに新しい作品なのに人種問題が未だにあるのかなと思いましたが、あるんですね。しかもラヴィは殺人犯の弟と見なされているわけで、二重に差別されています。彼の不安は決して杞憂ではないわけです。
もう解決したはずの事件を掘り起こすピップの行動は、上手く逃げおおせて安心していた真犯人を刺激することにつながります。彼女の元に脅迫文が届き、ピップは大切な存在を奪われます。この先どんな攻撃や危険が待っているか、そう考えるとさすがのピップも挫けますが、ラヴィが支えます。ラヴィは、もう少しで兄の無実を晴らすことが出来る、その機会を逃したくない。二人は苦難を乗り越えて見事事件を解決します。
ピップの綿密な捜査の過程が描かれ、ミステリーとしての読み応えがある上に、ピップとラヴィのみずみずしさが光る作品です。また、ピップの家庭の温かさもポイント高いです。分厚いけれど、楽しく気持ちよく読めます。発売当時大人気だったのがよくわかる、読後感のよいお話でした(2022年のこのミスで2位でした)。このまま、ピップとラヴィのさわやかコンビとしてシリーズ化しても、読者は喜んで読んだと思いますが、作者はその先に違う展開を用意していました。2作目、3作目と読み進むにつれ、この青春小説がノワールへと変貌してゆきます。結末には賛否両論がありましたが、このシリーズ全て読み終えたときに見えてくる世界は圧倒的なものでした。この作者はまだ若いのですが、大変な才能の持ち主だと思います。お勧めです。
お休みなさい。2024/8/9