こんばんは!
デニス・レヘイン(またはルヘイン)の「スコッチに涙を託して」:原題は、A Drink before The Warです。作者のカタカナ表記は2種類あり、角川はレヘイン、ハヤカワはルヘインです。
さて、本作は作者の処女作で、ボストンの探偵事務所が舞台です。探偵は二人、パトリックとアンジー、この二人の物語はこの後5作書かれ、シリーズ全6作で完結しているそうです。私は4作目の「愛しき者はすべて去りゆく」(映画「ゴーン・ベイビー・ゴーン」の原作)のみ読んでいます。「愛しき者は~」は児童虐待がテーマでいろいろ考えさせられる悩ましいお話ですが、名作だと思います。そのうち紹介したいと思います。
「スコッチに涙を託して」は1994年に発表され、シェイマス賞を受賞しています。この賞は優れた私立探偵小説に贈られるものだそうで、ルヘインが最初から才能あふれる作家だったことがわかります。このお話は、二人の探偵事務所に舞い込んだ「重要書類を盗んで失踪した掃除婦ジェンナを探して欲しい」という依頼が発端となり、ギャング同士の抗争へと発展していくというものです。依頼主が上院議員で報酬が高額であり、最初からきな臭さが漂いますが、ここまで激しく凄まじい抗争が繰り広げられることになるとは思いませんでした。そこに至るまでの経緯はとても興味深く、読み応えたっぷりで一気読みしました。
このお話の語り手はパトリックです。その語り口は、なんとなくではありますが、チャンドラーを思い起こさせるものがあり、その饒舌で時にユーモラスな語りも読みどころの一つに挙げられるかと思います。もう一つの読みどころはアンジーです。彼女は夫から激しい暴力を受けていますが、別れようとしない。彼女は探偵業をこなせるだけの勇敢さがあるにも関わらず、厳しい結婚生活に耐えて生きている。パトリックも不思議に思いますが、パトリックは「アンジーは彼を愛しているのだ、ただそれだけのこと。もはやわたしには決して見ることのできない彼のなにかが、彼女の瞳には聖杯のように輝くなにかしらよいところが、ふたりだけの時に彼女の前に姿を現すにちがいない」と語ります。これ、わかる気がします。そうなんだろうなあ、と思います。実はパトリックもかつてDV被害者でした。彼に暴力を加えたのは父親でした。この二人の人生模様も目が離せない。
2作目以降も読むつもりです。お休みなさい。2024/10/10