「ブラック・サンデー」

こんにちは!
トマス・ハリスの「ブラック・サンデー」:1975年の作品だそうです。ざっくり50年前ですね。ハリスは知る人ぞ知るレクター博士の生みの親ですが、この作品は作者のデビュー作でもちろんレクター博士は出て来ません。
このお話はパレスチナ・ゲリラの大規模大量殺人テロ計画のお話です。彼らは八万人の収容人数を誇る競技場で行われるアメリカン・フットボールの一大イベント、スーパー・ボウル当日、アメリカ大統領も観戦する予定の試合の最中に、大量のプラスチック爆弾を空から投下する計画を立てました。作戦の中心人物は3人。パレスチナ人二人とアメリカ人一人。リーダーはミュンヘンオリンピック村襲撃事件の首謀者ムハマド・ファシル、美貌の女性ながら非情な闘士ダーリア・イヤド、飛行船のパイロットでアメリカ人のマイクル・J・ランダー。ランダーはベトナム帰還兵ですが、ベトナム側の捕虜になった際、手に大けがを負いました。激痛に苦しんだランダーは、手の治療と引き換えにベトナム側の取引に応じます。このままではパイロットの命である手を失ってしまう。彼は、戦争犯罪を認める自供書にサインし、自供書を読み上げるところを撮影されました。敵側に寝返ったとみなされる行為でしたが、やむを得ない。しかし、周囲の彼を見る目はとても冷たい。この一件はランダーの心をひどく傷つけました。帰国後彼は除隊しました。そして家庭も崩壊してしまいます。現在の彼は、軍隊で身に着けた飛行船の操縦技術を活かして飛行船のパイロットをしています。スーパー・ボウルが開催される予定の競技場の上を、テレビ中継のクルーを乗せて飛ぶ飛行船のパイロット。頭の中で、爆弾を落とすシミュレーションをしながら彼は仕事をしているのです。彼には自国民の殺戮に対する迷いは微塵もないのです。
パレスチナ・ゲリラがアメリカを憎む気持ちはわかりますが、主犯の一人がアメリカ人、というのは意表を突かれました。そしてランダーは最後まで自分の命を顧みずに爆弾を落とそうとする。作者は、ランダーの自国への憎悪が形成されていく心の遍歴を描きました。ここはハリスが特に力を入れて書いた部分だと思います。じっくり味わってください。
テロリストを追う側、イスラエル秘密諜報機関のカバコフ少佐は、スーパー・ボウルが狙われている可能性に気が付いて、FBIとともに捜査を詰めていきます。直前でファシルを逮捕することに成功しますが、大量のプラスチック爆弾の隠し場所が突き止められないまま当日を迎えてしまいます。カバコフも命懸けの捜査を必死で続けます。このテロを何としても阻止しなくては。
私たちは空から攻撃してくる無差別大量殺人テロを実際に目の当たりにしました。あの時の衝撃をまざまざと思い出しながら、私はこの本を閉じました。
2024/9/5