「火星の人」

こんにちは!
アンディ・ウィアーの「火星の人」:SF映画「オデッセイ」の原作で、ウィアーのデビュー作でもあります。本作はご機嫌な一冊で、力いっぱいお勧めします。本を読むのが苦手な人でも楽しく読めると思います。
主人公マークは、思わぬ事故により生存には全く適さない火星に一人取り残されてしまいます。強烈な嵐に見舞われたクルーたちは、飛ばされてきたアンテナに激突したマークが絶命したと思い、彼を残して火星から脱出してしまったのです。なんとかハブ(居住施設)に戻ったマークは通信を試みますが、案の定だめ。アンテナ風に飛ばされちゃったっけ。誰もマークが生きていることを知らない。知らせる手段もない。酸素供給器が壊れたら窒息死、水再生器が壊れても死ぬ。食糧が尽きたら餓死。お先真っ暗な現状ですが、マークは手元にある物資を分析し、何をどう活用すれば生き延びられるか検討します。幸い太陽電池と水素燃料電池は無事で、電力には事欠かない。マークは植物学者です。火星の土を植物が生きていける土にするべく排泄物を活用して土作りを開始します。ハブの中に畑を作りジャガイモを栽培することに成功しました。なんとか餓死せずに済みそう。
まだまだ難問が山積みです。自分が生きていることを地球に知らせないと救出してもらえない。通信を復活させないといけません。マークはまだ知りませんが、地球では、火星を周回している衛星の写真によってマークの生存が明らかになっていたのです。地球では、総力を挙げてマークの救出作戦が開始されました。
試行錯誤の上地球との通信が復活しました。一進一退ではありますが、マークは少しずつ生還に近づいていきます。
さてこの小説は、命懸けの絶望的な状況を覆す悲壮な物語かというと全然そんなことはありません。マークは何回も危機的状況に陥りますが、いつもユーモアと前向きな姿勢を忘れません。エアロックが外れてしまった時もこんな感じ。「エアロックは横倒しになっていて、シューっという音がずっときこえている。だから、空気が漏れているか、ヘビがいるかどっちかだ。どっちにしても困った状況だ」。マークの語りは大体こんな感じ。一方で、マークの豊富な知識と思考過程も丹念に描かれていて、科学的に合理的な展開を楽しめます。作者はこの作品についてこう語っています。「マークが直面する問題のそれぞれは、彼の置かれた状況から当然そうなるものでなければならない。あるいは、できれば、前の問題を解決した結果、意図しない形で発生した問題でなければならないと決めた」。この姿勢はのちの作品にも継承されていて、ウィアーの小説の魅力はそこにあると思います。
2023/11/23