「皇帝のかぎ煙草入れ」

こんにちは!
ディクスン・カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」:「ロカールの原理」ってご存じですか?ジェフリー・ディーヴァーリンカーン・ライムシリーズでたびたび出てくる鑑識捜査の基本理念です。「犯人と犯行現場、または犯人と被害者のあいだでかならず微細証拠が交換される」。私はほとんど犯人当てに成功したことがない悲しいミステリー好きなので、最近ではもう犯人なんか当てられないんだから素直に騙されようと思って読んでいます。でもこの「ロカールの原理」で今回犯人だけは当てられました。ふふふ。
イヴ・ニールはバツイチ女性。離婚理由は夫ネッド・アトウッドの不倫です。ネッドの方は未練がありそうですが、イヴには新しい恋人が。真向いの家に住むトビイ・ロウズと婚約しました。彼女の離婚歴など気にしないロウズ家の人々に快く受け入れられ、イヴは幸せを噛みしめています。さてトビイの父親、モーリス卿の趣味は骨董収集です。収集品は書斎にしまわれていて、イヴの家から、書斎で収集品を眺めるモーリス卿の姿を見ることができるんです。
ある夜、イヴの家に前夫ネッドが忍び込んできます。この家の鍵を亡くしたというのは嘘でした。復縁を迫るネッド。イヴは困惑します。トビイと婚約したばかりなのに、こんなところを見られたら破談になりかねない。なんとかネッドを追い返そうとしますが思うようにはいかない。しつこいんですよ、この男。ネッドは窓際に行ってモーリス卿の書斎を眺めていましたが、イヴに、書斎を見るように促します。そこには何者かに激しく殴打されて絶命したモーリス卿の姿がありました。ネッドはやっと帰りますが、階段から転げ落ちて頭を打ってしまいます。助け起こそうとしたイブの髪にはネッドの血がべったりついてしまいます。手にも血が。たぶん服にも。こんな時に血まみれの姿を見られたら疑われてしまう。まずい。
浴室でネッドの血を洗い流したイヴですが、血の付いた帯紐を落としてしまい、警官に目をつけられてしまいます。警官は、イヴの衣類から瑪瑙の破片を見つけます。モーリス卿の宝物の、ナポレオンの持ち物だったとされるかぎ煙草入れの瑪瑙の破片と同じものでした。犯人はこの煙草入れも壊していました。でも現場に足を踏み入れてもいないイヴの衣類になぜこんなものが付着していたのでしょう?
イヴに不利な証拠がそろってしまいます。容疑者となったイヴ、彼女の無実を証明できるのはネッドだけ。でも彼女はネッドと一緒だったことを知られたくない。しかもネッドは例のけがのせいで、その後意識不明の状態に陥ってしまいました。どうする、どうなるイヴ、といったお話です。この殺人のからくりは面白いと思いました。カーを読んだことない方の最初の一冊としてもお勧めです。文庫の裏表紙には、「『このトリックには、さすがのわたしも脱帽する』とアガサ・クリスティを驚嘆せしめた不朽の本格編」と書かれていました。思わず読みたくなるような殺し文句ですね。
2023.11.4