「石の猿」

こんばんは!
ジェフリー・ディーヴァーの「石の猿」:ライム・シリーズの4作目です。これは少し異色作かもしれませんが、私は大好きな作品なので推したいと思います。中国人の違法移民を乗せた船、福州竜丸が荒れた海に翻弄されています。もうすぐニューヨークに上陸出来そうなのに沿岸警備隊に見つかってしまいました。どうする?船は沈没してしまいます。爆破されたのです。今回の犯人は通り名がゴースト、中国人の蛇頭です。船を爆破したのはこのゴーストです。全財産を投げ打って亡命を志した同胞の命なんてどうでもいい。非道な犯人です。救命ボートに乗り込んだゴーストは、海面に浮かぶ乗客を銃で撃ちます。自分の顔を知っている乗客を皆殺しにするつもりです。それでも別の救命ボートで命からがら上陸した二つの家族は生き残るために、異国での生活を軌道に乗せるために戦います。そして、ゴーストを追いかけてこの船に乗り込んだ中国公安局刑事ソニー・リーも、ゴーストを逮捕しようと奔走します。ところでソニーという名前から何を連想しますか?映画ファンのあなたなら「ゴッドファーザー」を思い出すのでは?当たりです。彼は自分の中国名が気に入らず、映画の人物から名前をもらってソニーと名乗っていたのです。
移民帰化局はゴーストを逮捕したい。ライムはその依頼を引き受け、福州竜丸の居場所をつきとめましたが、まさか爆破するとは。多数の乗客の命が失われました。自責の念に駆られたライムはニューヨーク市警鑑識課員のサックスを現場に急行させ、鑑識作業を開始します。
なんとか生き残った家族は、サム・チャン一家とウー・チーチェン一家。サム・チャンは知人を通じてニューヨークでの住居を事前に確保していました。長男と自分の働き口も。
一方、ソニーは海岸で鑑識作業をしていたサックスの車からお金とメモを盗みます。そのメモにはゴーストの捜査に関する情報とライムの住所が書かれていました。ライムの家に忍び込んだソニーはあっさり見つかってしまいますが、ライムはソニーのゴースト逮捕への執念を知り、協力してもらうことにします。ソニーはライムのことを老板(ラオパン)と呼びます。ボスという意味だそうです。このソニーがいいんですよ。彼は堂々と中国文化や中国人の価値観について語ります。もちろん、ゴーストならどうするか、捜査のヒントになることも話しますが、ライムの重い障害、四肢麻痺についても語ります。二人は酒を酌み交わしながら心を開いて話し合います。あの気難しいライムが彼には心を許すんですね。ライムは自分でも知り合ったばかりのこの男になぜ友情を感じるのか不思議に思う。
ライムは危険を覚悟で実験的な手術を受けようと考えています。ソニーは、やめるように忠告します。「今のままの自分を受け入れなってことだよ!あんたの限界を受け入れろって話だ」「あんたの人生はいまのままでバランスが取れてるんだよ」。そして老子の言葉を引用します。「よく見ようと家を出る必要はない。窓からながめる必要もない。代わりに、自分の内側で生きよ。生きればおのずと見えてくる」。
家族の物語として読むことも可能です。サム・チャンの家族は妻と息子二人、サムの老父の5人です。父親は癌を患っています。サムは父にアメリカの先端医療を受けさせたいと願っていますが、ゴーストに追いかけられている現状ではそれもままならない。彼は本国では反体制活動家でしたが、儒教的な価値観の男で父親への敬意を大切にしています。彼が一家を守ろうとする戦いにも目が離せない。そしてそんな息子を思う父親の愛情にも。
中国文化の影響が色濃い作品なので、ちょっとシリーズの他の作品と印象が違います。でも私はそこが気に入りました。そしてソニー・リー、この素敵な人物に拍手したいと思います。
お休みなさい。2024/8/14