「スケアクロウ」

こんばんは!
マイクル・コナリー:「スケアクロウ」:やっとマイクル・コナリーに到達しました。たぶん半年前ぐらい前には買ってあったと思いますが・・・この作者は初めてですが、コナリーにハズレはないと聞いていたので期待が膨らむ中で読み始めました。主人公マカヴォイはリストラ宣言されたロサンジェルス・タイムズの新聞記者で、最後に納得いく記事をものにして幕を引こうと思い、冤罪事件を扱うことにします。選んだ事件は凄惨なレイプ事件。逮捕されたのは未成年の麻薬の売人、無教養で下品な黒人少年です。でも被害者の殺され方が悲惨なんですよ。失神するまで首を絞めるという行為を絶命するまで繰り返され、膣と肛門に繰り返し異物を挿入されて局部はズタズタです。うわあ、酷い。よく男性が金的の痛さについて語りますが、膣に異物を突っ込まれるってたぶん死ぬほど痛い。こんな殺しは少年の仕業ではない。少年の容疑は晴れ、無事に釈放されました。そしてマカヴォイは同僚の手助けもあり、類似の事件が他にもあることに気が付き、連続猟奇殺人の可能性を追い始めます。その動きに気づいた犯人は、マカヴォイを追い詰めるべく携帯電話もネットも無力化し、彼の捜査を妨害します。ここからが恐怖の始まりです。犯人「スケアクロウ」は、追撃の手を緩めない。この小説では、犯人はすぐに明かされるのでフーダニットではありません。スケアクロウの正体はウェスタン・データ・コンサルタント社最高技術責任者のカーヴァーです。あれだけ残忍な猟奇殺人を犯す人間ですから、マカヴォイに対しても容赦ない攻撃を加えます。徹頭徹尾卑怯で残忍な犯人です。
マカヴォイの相棒として途中から登場するのがFBI捜査官レイチェル、二人は昔付き合っていたことがあるらしい。レイチェルは自分のプロファイリングの内容をマカヴォイに説明します。その内容がプロファイリング好きにはたまらないんですね。私はその手の話ならずっと聞いていたい方なので楽しく読みました。
このお話にはもう一つジャーナリズムの凋落を描くという側面があります。ネットの隆盛に伴って紙媒体が売れなくなる。でもネットにはある危険性がつきまといます。ネットは、「特殊な考えを正当化するのに役立つ」、つまり、歪んだ妄想を抱く仲間を見つけてしまえばその妄想は正当化される。自分だけではないことを確認できると確かに安心しますよね。私は間違ってなかったって思えます。だからこそ「新聞社が見張っていないと、腐敗があらたな成長産業になる」のに、新聞社は力を失いつつある。巻末に作者質疑応答がついていて、その中でコナリーは本作執筆の動機を語っています。「まず第一にスリラーであり、第二に新聞業界への哀歌である物語を書いてみたくなった」そうです。インタビュアーの「新聞と、日刊の印刷報道媒体の衰退に関して」という質問に、コナリーはこう答えています。「心配しているのは、報道の信憑性と、社会の木鐸的存在の喪失です」。小説自体も読み応えがありましたが、このインタビューもぜひ合わせて読んでください。コナリーはロサンジェルス・タイムズの記者だったんですね。
お休みなさい。2024/4/3