「囮弁護士」

こんばんは!
スコット・トゥローの「囮弁護士」:トゥローは「推定無罪」が有名です。ハリソン・フォード主演の映画もご覧になった方はいらっしゃるのでは?「推定無罪」については、また日を改めて書きたいと思います。
カバーに、「推定無罪」を凌ぐと絶賛されたリーガル・スリラーの傑作、と書いてあったし、2001年のこのミス4位に入っているし、期待が高まりますよね(ちなみにこの年のこのミス3位は「ハンニバル」です。ああ、レクター博士!)。
ロビーは人身被害専門の弁護士です。例えば、ハイウェイ走行中の交通事故で大けがを負った依頼人のために、自動車会社や州のハイウェイ局と争ったりします。彼はある医療事故を担当します。医学の専門家を複数用意する必要があり、多額の費用が掛かりました。主席裁判官に苦境を訴えたところ、担当判事に口を利いてくれると言われ、実際に審理は順調に進み、和解に持ち込むことに成功します。しかし、ロビーは判事へ金銭を送る必要に迫られ、その後長く収賄行為を続けることになります。それに気が付いた連邦検事セネットは、ロビーに刑務所に行くか、それともペトロス計画と名付けられた囮捜査に協力するか選択を迫ります。セネットは横行する不正行為を一網打尽にするつもりです。主席裁判官を含む関係者を一人残らず捕まえると断言し、FBIの捜査官も交えた囮捜査チームが始動します。ロビーの役割は重要ですが、ロビーねえ、うーん女たらしな軟派なおじさんだよね、大丈夫なのか?といういくばくかの不安を感じつつも、決して根っからの悪人とは言えないロビーの健闘を祈りつつ読みました。
アメリカのリーガル・スリラーを読んでいると陪審員の選定や彼らにウケる証拠の提示の仕方に弁護士が心を砕くシーンがかなりの分量を占めることが印象に残ります。本作にもそういう傾向がみられ、架空の案件をでっちあげて、賄賂にまみれている裁判官をあぶりだす作戦で盗聴や盗撮を駆使しますが、その時に欲しいのは、証拠としての正確さも当然みたいですが、陪審員が見たときに有罪だとわかりやすい画像や音声を得ることみたい。それがなかなか上手くいかない。賄賂を受け取る側もそう簡単にはぼろを出さない。
さて、弁護士ロビーは女性にだらしない中年男ですが、愛妻家でもあるらしい?。妻レイニーはALS:筋萎縮性側索硬化症という病気を患っています。主に運動ニューロンが障害される病気で、筋肉が動かせなくなり、最後には呼吸することも不可能になります。日本では10000人以上の患者が確認されているそうです。遺伝子異常も指摘されており、原因遺伝子と推定される遺伝子も30以上見つかっていますが、まだまだ病因には謎が多いのが現状のようです。で、ここからはマウスの話。実験動物の世界では疾患モデルマウスの系統があまた確立されていて、ALSモデルマウスの系統も数十種類もあり、製薬会社はそうしたマウスを購入し、治療薬の開発に取り組んでいます。最初は元気そうでも発症するとだんだん動けなくなり衰弱していくのがわかります。ALSマウスのケージがずらりと並ぶ飼育室に入るとALSの過酷さがしのばれます。レイニーの病状も深刻な状況で、普段は陽気なロビーも妻のことになると・・・
私がトゥローに魅了されたのは、「推定無罪」と「無罪」の法廷戦術の鮮やかさだったので、ほとんど法廷が描かれないこの作品にはそうした魅力はありません。しかし、あってはならない不正をなんとか正そうと知恵を絞り尽力するチームの奮闘と、努力にかかわらず意外なところでほころびかける危うさが読ませる作品だと思いました。
さて、悪者が一網打尽にされ、善が勝つという単純なお話ではなかった、とだけ書いて終わります。
お休みなさい。2024/5/22