「夏の花」その2

こんばんは!

原民喜の「夏の花」(1993/5、集英社文庫):原爆小説の代表的な作品です。作者は妻の死後、広島に里帰りしていた時に被爆しました。その時の体験を書いた短編が3作収録されています。

  • 「壊滅の序曲」:昭和24年1月発表、妻の死後、千葉から広島に帰郷した正三とその家族の被爆前の日常を描く。
  • 「夏の花」:昭和22年「三田文学」6月号で発表。被爆直後の現状を描く。
  • 「廃墟から」:昭和22年11発表月、被爆後移り住んだ八幡村での生活を描く。

以上は昨日のコピペです。

「夏の花」:原爆投下時、作者は厠にいました。おかげで原爆の致死的な光線を浴びることもなく軽傷で済みました。この小説における主人公正三も作者と同じく厠にいて一命をとりとめました。

ただこのお話は、原爆投下時の二日前、若くして亡くなった妻の墓参の場面から始まります。正三は妻の墓に手向ける花を携えています。

「その花は何という名称なのか知らないが、黄色の小弁の可憐な野趣を帯び、いかにも夏の花らしかった」

この作品はほぼノンフィクションを読むような味わいの作品です。被爆後作者が生き残った親族と八幡村に避難する過程がほぼ事実と呼応しているそうです。その過程で出会う死体、なんとか原爆の一撃で生き延びても死に行く途上にある人々、助けることもかなわず打ち捨てていくしかない比較的軽傷な、作者たちのような被爆者。でも見つけてしまう。作者の甥の遺体。まだ子供なのに変わり果てた姿で転がっていた。でも作者もこの子供の父である兄も、この死体を放置して避難します。弔うことも悼むことも慟哭することもない。

「次兄は文彦の爪を剥ぎ、バンドを形見にとり、名札をつけて、そこを立去った。涙も乾きはてた遭遇であった」

ここには二つの死が提示されています。通常の死と、未曽有の惨禍の中の死。どちらも重い死。

お休みなさい。2025/08/22