「三つの棺」

ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」:今読んでいる今年の夏に刊行された新しいコージー・ミステリー「壁から死体?」では、主人公が遭遇した殺人事件をミステリー好きの友達と解決すべく、過去のミステリー作品を参考に二人で話し合う場面が出てきます。この趣向は、クリスティの「おしどり探偵」でも見られたものですが、二人が選んだのはジョン・ディクスン・カーでした。

カーは不可能犯罪、密室物を多く手がけた作家で、本作の邦訳第一作は1955年ですが、新訳も2014年に出ていますので、そちらでお読みいただくと読みやすいかも。

このお話は、雪が降り積もった夜、グリモー教授が自室で射殺されるところから始まります。直前に訪問してグリモーと二人でいたはずの謎の男は忽然と消えていて、降り積もった雪には、犯人と思われる足跡がない。しかも同じ夜に同じ銃で別の男が通りで射殺されていますが、被害者の足跡しかない。どちらも犯人はどうやって逃亡したのかわからないんですね。謎が多い事件です。

この事件に挑むのがフェル博士。カーの作品で何回も登場する名探偵ですが、みかけはぱっとしないかも。デブの中年男です。本作はカーの長編の中でも評価の高い作品で、本筋も読み応えがあるのですが、カーがフェル博士に語らせている「密室講義」が有名で、カーが執筆に当たって密室殺人をどう捉えていたかを知ることが出来る貴重な資料となっています。ということで簡単に紹介します。

1 殺人ではないが、偶然が重なって生じた事態が、あたかも殺人のように見えるもの。

2 殺人だが、犠牲者が自殺に追いやられるか、なんらかの偶発事故で死ぬもの。

3 殺人であり、あらかじめ部屋に持ち込まれ、無害に見える家具のなかにひそかに隠されていた機械装置で殺されるもの。

4 自殺だが、殺人のように見せかけるもの。

5 殺人で、目くらましとなりすましから謎を生み出すもの。

6 殺人で、犯行時に部屋の外にいた誰かがやったにもかかわらず、なかにいた者がやったはずだと思われるもの

以上、引用は早川書房の加賀山拓朗先生訳から。

フェル博士の講義はまだまだ続きます。ご興味がおありの方はぜひ本作をお読みください。

で、これを引用したのは、「壁から死体?」がきっかけでしたが、今まで読んだ古典の密室物、特にヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」を思い出したりしたからかも。

お休みなさい。2024/10/21