「ガープの世界」

こんばんは!
ジョン・アーヴィングの「ガープの世界」:1978年に発表されたそうです。もうヘンテコ過ぎてなんといっていいかわからないお話です。でも私はこのアーヴィングのヘンテコな世界が、偏見のないただただ愛情に溢れる世界に見えるんです。初読は20代の頃、当時文学部の学生で、映画を先に見たと記憶しています。主演はロビン・ウィリアムスでした。私、この俳優さん大好きです。
ガープの母親ジェニーは看護師です。彼女は子供は欲しかったけれど、恋愛にも結婚にも興味はない。戦争で頭を負傷し入院していたガープ三等軍曹を勝手に父親に選びました。その後無事出産したジェニーは、息子にT・S・ガープと名前を付け、大切に育てます。ジェニーはスティアリング学院の付属診療所に住み込みで勤めることにしました。ジェニーは非番の日には授業を受け、読書に励みます。ガープもこの学院で学びます。そして、ある日、ジェニーはレスリングのコーチとその娘、アーニー・ホームとヘレン・ホームに出会います。ヘレンは猛烈な読書家で、父親がレスリングを教えている傍らでいつも本を読んでいます。彼女はガープに結婚するなら作家と結婚すると言いました。それを聞いたガープは作家になることを決意します。そして作品が出来上がるとヘレンに読んでもらい、感想を聞く日々。
作家修行に選んだのはウィーンです。母ジェニーと二人で暮らし始めたのですが、初めての土地にワクワクで一向に創作活動に取り組めないガープに対し、母ジェニーは猛然と自叙伝を書き始めます。題名は「性の容疑者」、ベストセラーになりました。評論家によると「力にあふれて一つの生きざまを謳いあげ、他の生き方を拒否した、真の女性運動家の手に成る最初の自伝」だそうです。ジェニーは本人の意図とは無関係に女性運動家として活動していくようになります。彼女の周りには悩める女性たちが集まるようになりました。
さて、ガープの方はというと、ヘレンと結婚し順調な私生活を送っていますが、ジェニーのようにベストセラーを出すことはできません。それでも「遅延」という題の小説を出版し、新人作家としてはまあまあな評価を受けました。ヘレンも大学に職を得て二人の息子ダンカンとウォルトにも恵まれました。
実はこの小説は、ガープの死後まで続く大河ドラマのような作品(約900ページはある)で、あらすじだけでもまともに書くとこの倍以上の分量になりますので、このお話のヘンテコさをうまく説明できなかったけれどもこの辺で打ち切って、この作品中最も個性的な愛すべき人物を紹介したいと思います。ジェニーの取り巻きは女性ばかりですが、一人ロバータ・マルドゥーンという性転換者がいます。彼女は、彼だったときはロバート・マルドゥーンという名の身長6フィート4インチの体格を誇るフットボールの名選手でしたが、「性の容疑者」を読んで性転換手術を受ける決意をしました。母の取り巻きが苦手なガープでしたが、ロバータとは仲良くなります。ロバータも、ガープとその家族に惜しみない愛情を注ぐようになります。のちにガープの家族に悲劇が襲った時も心身ともに傷ついた彼らに寄り添います。ロバータは傷心のガープに打ち明けます。手術後ジェーンがかけてくれた言葉がとてもうれしかったそうです。「知り合いの大部分の女よりもあなたのほうが女らしいわねって、そうお母さんはいってくれたの」。そう言われて感動するロバータの純粋さが、私は好きでした。
お休みなさい。2024/8/22