「グリーン家殺人事件」

こんばんは!
S・S・ヴァン・ダイン「グリーン家殺人事件」:1928年の作品です。読書会の課題図書だったので読みました。今回の開催地は岐阜でした(私は神奈川県民です)。岐阜で読書会&懇親会に出席し、名古屋に泊まり、翌日は鳥羽水族館へ。今や日本国内に3頭しかいないラッコのうち雌2頭を見てきました。水族館巡りも私の趣味の一つです。
では、まずざっと作品紹介したいと思います。グリーン家の現在の当主はミセス・グリーン、ご主人のトバイアスの死後、女当主として君臨しています。トバイアスが残した遺言は、自分の死後25年間は屋敷もそのままにして相続人である妻子も25年間屋敷に留まるように、というものでした。その遺言通りに家族は屋敷に住み続けています。ミセス・グリーンには子供が4人、長女ジュリア、長男チェスター、次女シベラ、次男レックス。そして養女エイダ、彼女の出自はあまりはっきりしていないので、最初はトバイアスの隠し子か?と思いましたが、そうではないみたい。ではこの家族が仲良く幸せに暮らしているかというと全く違います。母ミセス・グリーンは神経を病んでいて体が不自由なかわいそうな病人ですが、性格がとことん悪い。語り手は彼女のことを「長患いと孤独が、かつては才気も余裕もあっただろう心をゆがめてしまい、今の彼女は苦悩ばかりを大げさに気にして自己憐憫にひたる、受難者めいた人物になっている」と評します。もちろんこんな母を愛せる子供はいない。父トバイアスの25年縛りがなければとっくに崩壊していそうな家族です。でも逆も言えると思うのは、25年無為にこの家で過ごしていてもいずれは十分な財産を相続して裕福な生活を送れる保証があることが、この家族を駄目にしている。特に子供たちはまだ若いわけですから、実家を離れて自分の可能性を試してもいいけれど、そうするわけにはいかない、トバイアスの遺言によってこの家で幽閉生活を送るしかない、そういう不健康な空気がこの家族を蝕んでいると言えると思います。そういう状況の中、グリーン家では家族が一人、また一人殺されてゆきます。犯人は家族の誰か?それとも外部の人間?
探偵はファイロ・ヴァンス。芸術を愛し、博学で延々と蘊蓄を垂れる。すみません、私この人嫌いです。でもきちんと謎は解くので、読み甲斐はありますよ。
さて、岐阜読書会の話にも少し触れたいと思います。読書会の多くはゲストを招いていることがあり、今回のゲストは本作訳者のH先生でした。これ以上内容に触れるべきではないでしょうから遠慮しておきますが、ゲストのお話も聞けるのが読書会のいいところだということは書いてもいいかな。
先ほどグリーン家の当主が残した遺言が自分の死後25年間は屋敷もそのままにして相続人である妻子も25年間屋敷に留まるように、というもので、とういうことは子供たちは莫大な相続財産を考えれば、独立して自分の人生を構築するよりも屋敷に留まるほうが得だけど、年食っちゃう。父親としては子供の成長を阻む遺言なのが気になっていたんです。でも妻のことを考えた遺言だとすればこう考えられるかな。トバイアスがこの性格の悪い妻を愛していて、こんなんじゃ自分が死んだら子供たちがみんな去ってしまって彼女が孤独になってしまう、それはかわいそうだ、という愛情あふれる遺言かも。どうでしょう?必ずしもいい人が愛されるわけではない。ミセス・グリーンにはエキセントリックな魅力があって、トバイアスはそこを愛していた可能性はあるかもしれない。愛は理屈ではないでしょうから。
お休みなさい。2024.2.24