こんばんは!
ジェフリー・ディーヴァーの「ロードサイド・クロス」:原題は、Roadside Crossesで、キネシクス(観察対象となる人物のボディランゲージや言葉の選択、声の抑揚を分析する科学:訳者あとがきからの引用)の専門家キャサリン・ダンスシリーズの2作目です。1作目は「スリーピング・ドール」です。ボディランゲージから相手のウソを見抜くキャサリンは、カリフォルニア州捜査局(CBI)の捜査官です。尋問のプロでリンカーン・ライムも一目置く逸材ですが、プライベートでは30代の未亡人で、十代の難しい年ごろの息子と娘を持つ悩み多き母親でもあります。しかも恋多き人でもある。その辺も楽しく読んでください。
冒頭にディーヴァーは、「読者のみなさんへ」と題して以下のように宣言します・
「ネット上に形成された仮想世界と現実世界の境界線は、曖昧になりつつあります。この小説のテーマはそれです」
今回の容疑者は、ネットでいじめられていた少年トラヴィス・ブリガムです。彼は現在失踪中で、被害者はいずれもトラヴィスをネット上でいじめていて、トラヴィスには動機があるうえに行方不明。
車が道路を外れて転落した事件が発端です。同乗していた四人の高校生のうち二人が死亡しました。このときの運転手も高校生らしい。詳細な情報がない中、地元の若者たちは運転手はトラヴィスだと断定する投稿をアップします。「オタク、キモい、ヘンタイ、ネトゲ中毒」と思う存分罵る。
この構図は実はいじめの構造としては昔からあるありふれたものだとは思います。少し不器用でおとなしい人間が標的になる。それが現実世界にとどまっているうちは単なるいじめの対象にとどまる(とはいっても本人にとっては筆舌に尽くしがたい経験でしょう)と思うのですが、ネットで拡散されているうちに凶悪な人物に変貌を遂げる。その過程が不気味です。ネットが恐怖を増幅して現実を超えた偶像を作り上げていく。坂を転げ落ちる雪ダルマがあっという間に巨大で危険な雪の塊になるような、そんな恐怖がありますが、われらがダンスはこの状況をどう打開するでしょう?
おやすみなさい。2025/1/22