今週のお題「好きな小説」ダニエル・キースの「アルジャーノンに花束を」

今週のお題「好きな小説」ダニエル・キースの「アルジャーノンに花束を」:もう少しお利口になりたい、もしくはもう少し有能になりたい、でも自分の限界を痛いほど感じ、乗り越えられない壁にぶち当たったとき、決してこれ以上の自分になれないと悟ったとき、あるいは今後落ちてゆく自分と付き合うしかなくなった時、向上したいのにそんなことは不可能だと悟ったとき、どう生きたらいいのでしょう。
主人公のチャーリーは知的障害を抱えていますが、賢くなりたいといつも願っています。ベーカリーの仕事の傍ら学校にも通っています。賢くなるために。でも障害があるから思うように賢くなることはできない。そんなときに、賢くなる手術の被験者にならないか、という誘いが。チャーリーは応じます。そしてとっても賢くなるんです。同じく手術の被験者にマウスのアルジャーノンがいます。手術によってスーパーマウスとなったアルジャーノン、恐るべき知能を示す彼に、チャーリーは最初は気後れするんですね。でも手術の効果が出て、チャーリー自身も天才になってゆく。もう誰よりも賢い。アルジャーノンに劣等感を抱く必要もない。でも手術の効果は永遠ではない。彼は退行してゆく。以前よりも悪い状態になっていきます。アルジャーノンももうスーパーマウスではない。異常行動を示すようになり、死んでしまいます。この事実はチャーリーの今後を暗示しています。
チャーリーも知能が退行してゆく自分を無視できない状況に陥ります。自立できないぐらい知能が失われていく。今後どうしたらいいのか。その答えをチャーリーは出します。今まで生きてきた世界に別れを告げよう。
この小説ではチャーリーの手記という体裁をとっていますので、チャーリーの知能に応じて文体が変わります。英文ではスペルミスが多い。日本語訳でもたどたどしいへたくそな文章です。知能が上がると知的な文体に変化します。そしてまたもとのたどたどしい文章に戻っていく。知的能力が失われていく彼はそれでもまたかしこくなりたいと書きます。
ここには書けませんが、彼の手記の最後の一文は、きっとあなたの心に刺さるはず。チャーリーの美しい心を最後に感じてください。彼は心の美しさだけは失いませんでした。