「ヌヌ 完璧なベビーシッター」

こんばんは!
レイラ・スリマニの「ヌヌ 完璧なベビーシッター」を読み終わりました。フランスの子育て事情とそれに伴う社会格差が浮き彫りになる作品です。フランスでは保育園があまり整備されていないようで、中流家庭以上ではヌヌ(乳母)を雇うそうです。多くは移民の女性。貧困層です。本作のヌヌは珍しくも白人女性で、雇い主の女性が成功した移民という逆転現象の設定です。ヌヌのルイーズはとても孤独な人です。一人暮らしで亡くなった夫が残した借金で苦しんでいます。自分のせいではないのに生活が困窮しています。そして彼女は人を信じる経験を持つことはありませんでした。この苦境を助けてもらおうと声を上げるという発想はありません。ルイーズの雇い主ミリアムとポールはルイーズの完璧な仕事ぶりに感嘆しますが、ポールは言います「あまりに完璧で、あまりに思いやりがありすぎて、時々、嫌悪のようなものを感じるんだ」。でもミリアムもポールも仕事が乗りに乗っていてルイーズなしではやっていけません。
このお話は悲劇から始まります。「赤ん坊は死んだ。ほんの数秒で事足りた」。最悪の結末が冒頭で示され、ヌヌのルイーズが犯人なのも示されていますので、謎解きもなし。なぜこんな結末を迎えることになったのかそこに至るまでの経過を知りたいと思って引き込まれるように読んでしまいました。ルイーズの心の闇を食い入るように読み耽りました。このお話は実際に起きた事件がきっかけとなって描かれたそうです。その事件を起こしたヌヌは動機を聞かれても、自分でもわからない、と答えたそうです。さて、読み終わったところで私はルイーズの動機がわかったのか?わからない。と言うかわかるようなわからないような、というのが正直な感想です。訳者あとがきで作者スリマニのインタビューが紹介されていました。「文学の役割は人間が抱える様々な矛盾を見せること」。
お休みなさい。2024/4/17